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新国立劇場小劇場オペラ「フラ・ディアヴォロ」

 

日時:2007年2月15日(木)

場所:新国立劇場小劇場

 

スタッフ

指揮:城谷正博

演出:田尾下哲

管弦楽:新国立劇場小劇場オペラ・アンサンブル

 

登場人物

*これを紹介すると、ネタバレであるが(笑)

 

フラ・ディアヴォロ(成田勝美):

テノール。ヤクザの大泥棒。悪党から若い娘にまで愛される伊達男。実は3億円事件の主犯。

 

コックバーン卿(今尾滋):

バリトン。元駐在英国大使。ディアヴォロに3億円を奪われた。

 

パメラ(林美智子):

メゾソプラノ。コックバーンの妻。中国出身。贅沢好きの美女。

 

ロレンツォ(大槻孝志):

テノール。3億円事件の犯人を追って東京から赴任してきた若き部長刑事。

 

マッテオ(大澤建):

バス。呂馬(ローマ)温泉の主人。娘を金持ちの竜宮温泉の息子と結婚させようとしている。

 

ツェルリーナ(諸井サチヨ):

ソプラノ。マッテオの娘。呂馬温泉の若女将。ロレンツォと恋仲。

 

ベッポ(大野光彦):

テノール。ディアヴォロの手下。自称“策略家”、実はドジな男。

 

ジャコモ(峰茂樹):

バス。ディアヴォロの手下。力自慢の男。

 

ドロンヌ(木村真樹):

語り役。ディアヴォロの手下。セクシーな女泥棒。

 

<アンサンブル>

 

オッツボーネ(藤井直美):

先代女将の代から呂馬温泉で仲居頭をつとめている。

 

マイコリン(浅野美帆子):

お色気自慢の仲居。

 

ハッコ(畠山和子):

新人の仲居。オッツボーネとマイコリンにこき使われている。

 

きんたいち(長裕二):

ロレンツォの部下。迷探偵。

 

アルッキー(竹内俊介):

ロレンツォの部下。アル中。

 

イノシ課長(根岸一郎):

ロレンツォの部下。自分より若い部長刑事ロレンツォが気に入らない。

 

ランボー(渡辺健一):

ロレンツォの部下。何でもかんでも銃を乱射する。

 

特別出演

 

しゃれこうべえの声:滝口順平

 

  オペラ「フラ・ディアヴォロ」

オーベール作曲「フラ・ディアヴォロ」は1830年に発表されたフランスのオペラ・コミックである。というわけで、歌と歌との間をセリフでつなぐ。上演時の世相などに合わせ、タイムリーなギャグを盛り込むのも特徴である。で、今回は1970年代のニッポンが舞台となり、アナログ?な笑いが詰まっている。名作オペラのさわりもたくさんあり、ファンが思わずクスッと笑ってしまう仕掛けだ。それと、ディアヴォロの手下3人組というのは、タツノコプロのタイムボカンシリーズのずっこけ3悪トリオからきており、同シリーズでは3悪トリオのボス役の声優の滝口順平氏が特別出演し、タイムボカンシリーズを見ていた“元”子供にはこたえられない(笑)。しかし、もう一人忘れがたいのはナレーター役の故・富山敬氏(私は富山さんのファンでした。だって、「宇宙戦艦ヤマト」見て育った子だもん)。あぁ涙・・・・・。

舞台は、ドリフターズのコントのセットを思わせる2階建てのセットが組まれ、すべての部屋を客席からウォッチングできる作りで、別々の部屋でそれぞれ芝居が同時進行しているのを見せられる。

例えば、第2幕で、1Fの女湯にツェルリーナとパメラとドロンヌが入っているのを、ディアヴォロ、ベッポ、ジャコモが覗いている一方、2Fではイノシ課長、アルッキー、きんたいち、ランボー、そしてコックバーンも加わり、マイコリンやハッコも立ち合ってサイコロをやっている、という具合である。

そうかと思うと、第1幕のフィナーレは全員がアンサンブルに加わり、ロッシーニのオペラ並のド迫力のクレッシェンドで終わったりする。

演出家がライバルの竜宮温泉の息子役で出演したり、指揮者が口出しするのも可笑しい。先にタネ明かしすると、おなじみの名曲「岩にもたれた」(堀内敬三訳詞)をツェルリーナが歌う時、まずカラオケのスイッチを入れるのだが、すると指揮者がしゃしゃり出て「生オケがあるだろう」と口出しし、ツェルリーナとディアヴォロが生のオケ伴でデュエットする、という調子。

名作オペラのさわり、というと、ディアヴォロが手下たちへのメッセージを井戸の桶に隠そうとすると、逆にメッセージが桶に入っていて、ディアヴォロがそれを取って読むと、「リクエスト、トゥーランドット」とあり、成田勝美が「ネッスン・ドルマ」(カラフのアリア)を歌う、とかオペラファンには嬉しいネタもある。オペラファンならご存知の通り、成田はローエングリンやジークフリートをもレパートリーに持つテノールである。もう一人のディアヴォロ役の永澤三郎は「椿姫」アルフレッド、「トスカ」カヴァラドッシ、「カルメン」ホセなどが持ち役である。2人とも「ネッスン・ドルマ」は歌って良し、だと思う。

そろそろ本編に入ろう。

1970年代のニッポンのとある山の中にあるさびれた温泉宿、呂馬温泉。宿の主人のマッテオは、娘のツェルリーナをライバルの竜宮温泉の息子に嫁がせ、その傘下に入ることで経営危機を乗り越えようとしている。だが、ツェルリーナには他に好きな人がいた。

序曲に乗せて、いきなり正面のスクリーンに「GMEN’72」のタイトルとともに、5人の男たちが映る(ウフフフフ)。ロレンツォと4人の部下たちである。ご丁寧に一人ずつ紹介される。これはTBSのGメン’75と一緒。彼らは3億円事件の犯人が逃亡してきているという情報があったので、ここで捜査をしているのだが、何ともまあ見るからに当てにならないことがバレバレの刑事たちばかりである(笑)。大体、宿の庭にブルーシートを敷き、3人の仲居と酒盛りをやってるからして・・・・・・。

ロレンツォが部下たちに事件の概要をスクリーンの映像を見せて説明している。犯人たちはコックバーン卿と妻パメラから3億円を奪おうとしている。グループの一人ドロンヌが口裂け女(うーーん、懐かしい)に化けて夫妻を寂しい山道に追い込み、白バイ警官に化けたディアヴォロが、あの府中刑務所の前で東芝の社員を騙したのと同じ手口で、まんまと3億円を奪ったわけである。スクリーンには、あのモンタージュ写真とそっくりなディアヴォロの指名手配写真が映し出され、ロレンツォの部下のランボーが激してマシンガンをぶっぱなし、スクリーンは穴だらけに・・・・・。そんなことしても仕方ないのに。

そこへ、コックバーンとパメラの2人が温泉宿へ逃げ込んでくる。彼らは金庫だけは取られずに済んだ。だが、ディアヴォロ一味は金庫を狙って追いかけてきている。ロレンツォは一人、ディアヴォロ逮捕のために出動する。部下たちは、作戦会議と称して行く気はないらしい。ディアヴォロには懸賞金がかかっている。ロレンツォとしては愛するツェルリーナと結婚するために、懸賞金をゲットする必要がある。そして彼は出動する。

そこへ、客を装うディアヴォロ一味が到着する。ディアヴォロ役の成田勝美は身長190cmの長身に恵まれ、いかにも立派な泥棒一味の親分である。二期会のベテラン、大野光彦、峰茂樹がマヌケな手下に扮する。2人とも見栄えのいい歌い手であるのだが。それと原作にいないもう一人の手下ドロンヌ。

この3悪トリオはディアヴォロがお泊り交渉をしている間、記念写真を撮っている(脳天気な手下だ)。呂馬温泉は、(よく観光名所にある、首を突っ込んで記念写真を撮るあれ、なんだっけ?名前忘れた)「蝶々夫人」のピンカートンになって写真を撮れるのだが、ジャコモ(=プッチーニのファーストネームと一緒)が首が抜けなくなった状態で、新国立劇場の3月公演「蝶々夫人」の宣伝のため?「ジャコミーニ(=ジュゼッペ。イタリアの名テノール)がピンカートンをやる・・・・・」とギャグを言っているのだが、抜けないのにあがいた挙句、ピンカートンの股間から手を出してしまい、客席を唖然とさせる展開。結局脱出できたのだが。

それから、コックバーン夫妻とディアヴォロ一味が宿泊することになり、ディアヴォロの正体をまだ知らないツェルリーナが、本人を前に、大泥棒ディアヴォロのことを説明しようと、カラオケのスイッチを入れると、指揮者から「生オケがあるだろう」とチャチャが入り、「岩にもたれた」をディアヴォロとツェルリーナがデュエットし、コックバーン夫妻や仲居たちや刑事たちがペンライトで盛り上げる、というわけ。

これ以外にも、ドリフのコント張りに、トイレに入って用足ししているとタライが頭に命中する、なんてギャグもある。

また、刑事の一人が美人妻のパメラに向かって、ドン・ジョヴァンニの「お手をどうぞ」を歌いかけ、パメラが「ボレイ・ノンボレイ・・・・・」と応えると、夫がそいつをぶっ叩く。

これまたネタバレになるが、パメラ役の林美智子はメゾだが、ケルビーノはもとより、伯爵夫人ロジーナや「ドン・ジョヴァンニ」のツェルリーナもレパートリーにしているので、ロジーナの嘆きのアリアや時にはカルメンまで登場するので、これもお勧めだ。

ディアヴォロは色仕掛けでパメラをたらしこみ、金庫の隠し場所をまんまと聞き出す。その間にマヌケな3人の手下が金庫を探す。そして極め付けが、3悪トリオの影のボス“しゃれこうべえ”(赤いドクロ)の登場。滝口順平が30年前と変わらぬ名調子で決める。しかしここまでやるなら、3悪トリオの歌も歌ってほしかった(例えば、ウハハ、ウハハ、ウハハのハ・・・・・♪とか)。ドロンヌはドロンジョのパロディだそうだし(マージョ、ムージョ、アターシャ、ミレンジョ等々いるが)。

さて、ロレンツォが帰ってきて、コックバーン夫妻の奪われたお金や宝石を取り戻してきた、と告げる。ツェルリーナとロレンツォはこれで結婚できる、と喜ぶ。ここで、ひとまず、ロッシーニ・クレシェンド張りのフィナーレで1幕は終わり。

2幕は入浴シーン。ディアヴォロが逃亡経路探索と称し、女湯に忍び込む。そこへツェルリーナが来る。ここで可笑しいのは、ツェルリーナがオケピットの指揮者に向かって「やだーーん、マエストロったら、音楽のタイミングが早すぎるわぁ。もう、せっかちなんだからぁ。ルームNoは××××よ、ウフ」なんて調子なので、客席は「はっ???」である。だって、彼女にはロレンツォがいるじゃないの?ディアヴォロの手下たちもやって来る。覗かれているとも知らず、ピンクのスポットライトを浴びて歌うツェルリーナ。やがてパメラもやって来る。一方、夫のコックバーンは、上の階で刑事たちとサイコロをやっている。マイコリンが片肌脱いで、「入ります!」のノリでサイコロを振っている。これじゃ「緋牡丹おりゅう」じゃないのって(笑)。それから、ドロンヌも女湯にやって来る。演出ノートによると、この場面は、覗きをやっている連中が覗かれている可笑しさ、がポイントらしい。

ロレンツォが戻ってきて、覗きの現場を咎める(当然だが)。ディアヴォロは、ツェルリーナと逢引するつもりだったと嘘をつき、ロレンツォはツェルリーナに対して怒り出し、恋人たちは喧嘩になってしまう。ここはラブ・コメの王道というべき展開かもしれない。かくしてツェルリーナは父の勧める結婚に同意して、幕となる。

ところで、“しゃれこうべえ”が何やら3悪トリオに伝えようとしているのだが、そのつど邪魔が入り、伝え損ねる。一体何を言いたいのか?

3幕は、ツェルリーナの結婚式が行われることになり、ディアヴォロはその隙を突いて金庫を盗もうと決意し、決意表明のアリアを歌う。その後、手下たちへのメッセージを桶に隠そうとするのだが、桶からはリクエストカードが出てくる(笑)。「リクエスト、トゥーランドット」とある。すると、「ネッスン・ドルマ」の旋律が鳴り、拍手に応えて、ディアヴォロが歌う、ヴィンチェロ〜♪と。トリノ五輪でパヴァロッティが歌い、荒川静香が金メダルを取ったのは記憶に新しい。古いところでは、アイドルテノール錦織健がネスカフェゴールドブレンドのCMで歌っていたのを、覚えている方がいるだろう。

ディアヴォロはこのあと姿を隠し、いよいよツェルリーナの結婚式。花婿もやって来る。当然ながら、ロレンツォは腐っている。しかし、式の途中に抜け出してきたウェディングドレス姿のツェルリーナがロレンツォに、「あたしを連れて逃げて」と言うと、ロレンツォは「ダスティン・ホフマンじゃないよ、ボクは」と答える(笑)。とは言うものの、思いは抑えがたく、ディアヴォロを逮捕して晴れて結婚!と思うロレンツォは、ディアヴォロの手下どもを掴まえて締め上げ、ディアヴォロに罠を仕掛けることに協力させることになる。(タイトル忘れたけど)何かの刑事ドラマのパロディで「吐いちまいなよ・・・・・」とやるので、忍び笑いが止まらない。罠にかかってのこのこやって来たディアヴォロを遂に逮捕する。そして、例の金庫から出てきたのは、トイレットペーパーだった。そう、オイルショックのニッポンで、トイレットペーパー狂騒曲があったのをご存知だろう。しかし、この時既に、トイレットペーパーはただのトイレットペーパーだった。プレミアム付ってわけには行かなかったのだ。オイルショック沈静化のニュースは山の中の呂馬温泉には届いていなかった。かくしてディアヴォロの努力?は無駄に終わった。バカだねぇ、3億円持って逃亡すればよかったのに。“しゃれこうべえ”はこれを伝えたかったのだった。そして、中央のスクリーンに姿を現した“しゃれこうべえ”はヤッターマンの時と同様に自爆する(ひえーーーっ)。

ネタ明かしだけで、こんなに書くことになってしまった。しかも全部は書けていない。それでも、この作品はレパートリー化してほしい。細かいギャグはそのつど導入すれば良いのだから。

 

歌い手さんたちは、訳詞が良くできていたおかげで、言語不明瞭な方はいなかった。

ディアヴォロ役の成田勝美は、見栄え良く、高い声が太いまま出るリリコスピントで適役だ。以前見た彼のマックスやジークムントもカッコ良かったよん。まだまだ活躍して下さい。

もう一人のテノール、ロレンツォ役の大槻孝志は、ニコライ・ゲッダっぽい粘りのあるリリコレジェーロ。私はこのタイプは好きである。このオペラ、主役クラスのテノールが2人、というのが味噌かも。

今売れっ子のパメラ役のメゾ林美智子はやはり華がある。林は、11月に日生劇場で、ベッリーニのロミ・ジュリ「カプレッティとモンテッキ」で男役のロミオを演じる予定。2002年の藤原歌劇団公演では、森山京子がロミオを名演した(=ジュリエット/佐藤美枝子、ティボルト/小林一男、といういいキャストだったのに、森山が一番の出来だった)が、林のロミオも楽しみだ(=私的に思っていたことだが、日生の公演でのロミオ役予想は、森山、林、藤村実穂子の誰か、だった。結局、林だったわけだ。ジュリエットは砂川涼子が予定されている)。

ツェルリーナの諸井サチヨは軽やかなソプラノでコロラトゥーラもこなす。まだ青い気はするが、光岡暁恵(=藤原期待の新星。「ランスへの旅」でマダム・フォルヴィルを歌った。しかしベルカント歌手なら、もう少し美声であってほしい)や中村恵理(=新国立劇場で「イドメネオ」のイリアを歌った)よりは好きなタイプ。娘役の典型的なタイプである。

それ以外では、オッツボーネ役の藤井直美がスパイスになっていた。だって、ディアヴォロの手下が「あの仲居さんのマッサージ効きすぎだぁ」というのがリアルだ(笑)。

グズい新人ハッコ(畠山和子)は、最後の最後でライバル旅館の嫁になることが決まり、ハッピーエンドになる。人が良くて先輩にいいようにこき使われていたのだが、良かったな。

思えば、ディアヴォロの手下3人、ロレンツォの部下4人、呂馬温泉の仲居3人、上手くシンメトリックに作用していたと思う。演出家と指揮者の手腕に拍手を送りたいと思う。

 

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