まず、両演目で主演した志賀三佐枝の充実振りが目についた。どんなに誉めても、誉めすぎになることはない、と言ってもいいくらいだ。もはや、同僚の宮内真理子を凌駕している、と言っても過言ではない。ラ・シルフィードでは、けれんみのない正攻法の踊りで、技巧も音楽性も高いレベルで安定し、パキータでもグランフェッテが圧巻だった。
しかし、ラ・シルフィード役においては、より感動させたのは、西山裕子である。(彼女にいつも冷たい)牧阿佐美芸術監督も、初演(2000年)に続いて主役を任せたのだから、よほど高く評価しているのだろう。たおやかで、最期まで心優しいシルフィードだった。2幕では、ラ・シルフィードと他のシルフたちの群舞が音楽とシンクロして、美しい幻想の世界を作り出す。彼女のシルフを観ていると、どうしてジェームズとシルフィードは結婚できないのか、と、悔やまれてしまう。
初演に続き、ジェームズ役の小嶋直也は、ジェームズをして“自己中心的な嫌な男”と捉えているようだが、彼のいつもながらの妙技は、ここでは酷薄な美しさに満ち満ちている。濃厚でないことを食い足りなく思う向きもあるでしょうが。いい意味で裏切られたのが、逸見智彦のジェームズだ。思っていたより陰険なジェームズで(マトヴィエンコは愚かな憎めない男だった)、いつもは気に食わないな、と思っている彼の無表情が、ここではとても効果的。できれば、山本隆之のジェームズも見てみたかった。
脇役では、エフィは、可憐で軽やかな中村美佳と、地に足をつけた女性像を描く高橋有里が、甲乙をつけがたい出来。特に中村は、シルフ役も観てみたい、と思っている。
グァーンは、技巧ではトレウバエフだが、グァーンの怒り、哀しみ、屈折、といった感情面は、奥田慎也のほうが良く描けていた。
マッジの西川貴子は、2度目の出演だが、この間に主役も経験して自信がついたのか、存在感を増していた。
「パキータ」は、ゲストが精彩を欠き、これは期待はずれ。マトヴィエンコだけは、キチンと準備が出来ていたけれど。コール・ドゥの鹿野沙絵子(現在はコリフェ)、丸尾孝子は健闘したが、回転の精度等では、やはりソリスト組に一日の長がある。バリニフ、吉本はテクニックを見せて沸かせた。コール・ドゥも健闘した。
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