私は自称オペラ・ファンであるが、いい加減なファンである。だって、好きなオペラはヴェルディの「椿姫」というのだから。昨年の11月24日に二期会で、今年の1月19日には藤原歌劇団の公演で観た。主役は、前者は、私の大好きなプリマ・ドンナ澤畑恵美さんである。後者は、久しぶりの新人起用で、昨年の日伊声楽コンコルソで優勝した野田ヒロ子さんであった。
では先に二期会の公演から。
お目当ては勿論澤畑恵美さんの”ヴィオレッタ”である。
ご本人は、「音楽の友」のインタビューにおいて、
「私の声は、”ヴィオレッタ”向きというわけではない。ニュートラルな声だと思う」
と、おっしゃているけれど、私は、彼女がやらなければ、一体他の誰が”ヴィオレッタ”にふさわしいのか、と思っている。一点の曇りもない玲瓏たる美声で、超高音も超高音と感じさせないというのに。最初の歌い出しこそ、エンジンがかかりきらないうらみがあったけど、一度エンジンがかかれば、もう大丈夫。「そはかの人か〜花から花へ」での技巧的な難しさもそうと思わせない出来。まさに”天使の歌声”と言っても言い過ぎではないと思う。「さらば過ぎ去りし日々」も繰り返し歌われたのには、大満足。
私が、澤畑恵美さんを特に好きな点は、凛としていること。これは、”ヴィオレッタ”を歌う上で、とても重要だと思っている。そのせいか、或いは栗山昌良さんの演出の意図か、”ヴィオレッタ”が死ぬ時、”アルフレッド”の腕の中で息絶えるのではなく、”アルフレッド”と”ジェルモン”、”アンニーナ”らの見守る中、誰にも抱きとめられることなく、床に崩れ落ちるのです。”ヴィオレッタ”は孤独に、しかし崇高さすら感じさせて死んでゆく、というか。
次は藤原歌劇団の公演。演出はこちらの方が意欲的だった。
まず、タイトルをあえて、「ラ・トラヴィアータ」にしたことで、オーソドックスな「椿姫」と一線を画していた。演出はイタリアのロレンツァ・コディニョーラ女史。指揮は、いつもはシンフォニー指揮者として活躍する広上淳一さん。幕が開くと、19世紀のパリというより、20世紀以降で時代は特定していない様子。ヴィオレッタは、パトロンのドゥフォールと上手くいっていないようだ。
注目のヴィオレッタは、新人の野田ヒロ子さん。藤原としては、久しぶりの新人起用だ。彼女の初のヴィオレッタは、説得力のあるものだった。声はリリコからリリコ・スピントが守備範囲で、将来的には「アイーダ」のタイトルロールや、「ドン・カルロ」のエリザベッタが相応しいと思う。特に2幕のジェルモンとのやりとりは、真実味が溢れ、その点、演技的には、二期会の澤畑恵美×直野資のやりとりより、野田ヒロ子×谷友博の方に軍配をあげたい。3幕は、相手役のグロッロも熱演したので、「パリをはなれて」はとても良かった。ヴィオレッタの哀しみや孤独に共感させられる出来だった、と思う。
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